この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
宅建試験令和元年問2(差し替えあり)
AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
- 【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、AがBとの売買契約を錯誤を理由に取り消す前にCがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていたとしても、CがAの錯誤について悪意であるときは、Aに重大な過失がなければ、Aは、Cに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
- 【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、Aに重大な過失があったとしても、Bが重大でない過失(軽過失)によりAの錯誤を知らなかったときは、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
- AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
- Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失がなければ、Aは、Bから甲土地を買い受けたCに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
- Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失があったとしても、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
宅建試験令和元年問2の正解は「4」です。

宅建試験令和元年問2の正解と各選択肢の正誤
宅建試験令和元年問2の正解は「4」です。
本問は「誤っているもの」を選ぶ問題です。選択肢4が誤りで、その他は正しいです。基本的なことですが、正しいものを選ぶ問題ではないので、問題文の読み間違えに注意しましょう。
この宅建試験令和元年問2では、詐欺・錯誤による意思表示の取消しに関する基礎知識が問われています。
| 選択肢 | 正誤 | 必要知識 |
|---|---|---|
| 選択肢1 | ○(正しい) | 表意者と詐欺取消し後の第三者は対抗問題となる(表意者は、対抗要件を備えなければ、詐欺取消し後の第三者に権利の復帰を対抗できない) |
| 選択肢2 | ○(正しい) | 詐欺取消し前の第三者の保護要件は「善意無過失」 |
| 選択肢3 | ○(正しい) | 錯誤取消し前の第三者の保護要件は「善意無過失」 |
| 選択肢4 | ×(誤り) | 表意者に錯誤について重過失がある場合でも、相手方が錯誤について悪意または重過失があるときは、意思表示を取り消せる |
選択肢1:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢1
AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
表意者(詐欺の被害者)と詐欺取消し後の第三者は、対抗関係になります(民法177条)。
そのため、Aは登記を備えなければ、背信的悪意者でないCに対して、詐欺取消しによる甲土地所有権の復帰を対抗できず、甲土地の返還を請求できません。
したがって、選択肢1は正しいです。
選択肢2:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢2
AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
表意者(詐欺の被害者)と詐欺取消し前の第三者は、対抗関係にはなりません。ただし、表意者は、善意無過失の詐欺取消し前の第三者に対しては、詐欺取消しを対抗できません(民法96条3項)。
選択肢2のCは悪意です。そのため、Aは、登記の有無にかかわらず、Cに対して詐欺取消しによる甲土地所有権の復帰を対抗でき、甲土地の返還を請求できます。
したがって、選択肢2は正しいです。
選択肢3【差し替え】:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢3
【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、AがBとの売買契約を錯誤を理由に取り消す前にCがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていたとしても、CがAの錯誤について悪意であるときは、Aに重大な過失がなければ、Aは、Cに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
表意者は、錯誤が重大な過失によるものでない場合、錯誤による意思表示を取り消せます(民法95条1項、3項)。
また、錯誤取消し前の第三者が保護されるためには、善意無過失であることが必要です(民法95条4項)。この場合、登記の有無は問題になりません。
選択肢3のAには錯誤について重過失がないので、取消しが可能です。そして、第三者Cは悪意であるため、AはCに対して錯誤取消しを主張して甲土地の返還を請求できます。
したがって、選択肢3は正しいです。
選択肢4【差し替え】:×(誤り)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢4
【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、Aに重大な過失があったとしても、Bが重大でない過失(軽過失)によりAの錯誤を知らなかったときは、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
表意者の錯誤に重大な過失がある場合でも、意思表示の相手方に、錯誤について悪意または重大な過失があるときは、意思表示を取り消せます(民法95条3項1号)。
選択肢4の相手方Bには、軽過失しかないため、AはBに対して錯誤取消しを主張できません。
したがって、選択肢4は誤りです。
詳細解説:本問を解くために必要な前提知識
宅建試験令和元年問2では、詐欺・錯誤による意思表示の取消しの基礎知識が問われています。
そこで、各選択肢を詳細に検討する前に、詐欺と錯誤について確認しておきましょう。
詐欺による意思表示の取消し
詐欺とは、他人を欺罔して錯誤に陥らせて意思表示をさせることです。簡単に言えば、「騙して意思表示をさせる」ことが、詐欺です。
この詐欺によって意思表示をした場合、意思表示をした人(表意者)は、意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。
民法 第96条
- 第1項 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
- 第2項 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
- 第3項 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
錯誤による意思表示の取消し
錯誤とは、表意者の内心の意思と表示行為が一致しないこと、または、内心の意思を形成する動機に真実との不一致がある場合のことです。
この錯誤が、以下の要件を充たす場合、錯誤による意思表示を取り消すことができます(民法95条1項、3項)。
- 錯誤があること
- 意思表示に対応する意思を欠いていること(表示行為の錯誤)
- 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反すること(動機の錯誤)
- 錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであること
- 動機の錯誤の場合は、表意者が、内心の意思を形成した事情(動機)が法律行為の基礎とされていることを表示していたこと
- 錯誤が表意者の重大な過失に基づくものではないこと
民法 第95条
- 第1項 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
- 第1号 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
- 第2号 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
- 第2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
- 第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
- 第1号 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
- 第2号 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
- 第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
意思表示の取消しの効果
詐欺や錯誤に基づく意思表示であっても、当然には無効になりません。取り消されるまでは、一応有効な意思表示として存続します。
そして、詐欺や錯誤に基づいて意思表示が取り消されると、意思表示をした時に遡って無効になります(遡及効。民法121条)。
取消しができる意思表示と、当然に無効な意思表示は、法律上の取扱いが違うので、気をつけましょう。
選択肢1の詳細解説:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢1
AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消した後、CがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えた場合、AC間の関係は対抗問題となり、Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない。
選択肢1では、いわゆる「詐欺取消し後の第三者」と呼ばれる論点が問題になっています。事例問題なので、まずは関係図を自分で書いてみて、事例を整理しましょう。

詐欺取消し後の第三者
前記のとおり、詐欺により意思表示が取り消されると、意思表示は遡及効に無効となります(民法96条1項、121条)。
もっとも、詐欺取消しされると、詐欺の被害者と加害者は相互に、原状回復しなければいけません。選択肢1であれば、BはAに甲土地の所有権を戻す物権変動(復帰的物権変動)が発生する形になります。
この原状回復を加味して考えると、「B→A」への復帰的物権変動と、「B→C」への売買契約による所有権移転の相反する矢印が発生します。二重譲渡に類似した関係が生まれるのです。
そのため、詐欺取消し後に新たな法律関係に入った第三者と詐欺被害者の関係は、二重譲渡と同様、対抗関係になると考えられています(大審院昭和17年9月30日判決)。
つまり、詐欺被害者と第三者は、先に登記などの対抗要件を備えなければ、権利の復帰または取得をお互いに主張できないことになります(民法177条)。
選択肢1の結論
選択肢1では、AがAB間の売買契約を詐欺取消しをした後に、CがBから甲土地を買い受けて登記しています。いわゆる「詐欺取消し後の第三者」です。
そのため、AとCは対抗問題となり、Aは登記を備えなければ、Cに対して甲土地の所有権の復帰を主張できず、返還も請求できません。
したがって、「Aは、いわゆる背信的悪意者ではないCに対して、登記なくして甲土地の返還を請求することができない」とする選択肢1は正しいです。
補足:背信的悪意者とは
選択肢1では、「背信的悪意者ではない」と指定があるので特に問題になりませんが、念のため「背信的悪意者」についても押さえておきましょう。
背信的悪意者とは、単なる悪意を超える背信的な意図を持つ者のことです。
対抗問題では「先に対抗要件を備えた方が勝つ」のがルールです。このルールの下では、悪意者であっても、先に登記などを備えれば、権利を主張できます。しかし、単なる悪意を超える背信的悪意者まで保護されるのでは、かえって取引の安全を害します。
そこで、単なる悪意を超える背信的意図を持った「背信的悪意者」は、登記がないことを主張する正当な利益がないため民法177条の第三者に該当しないと考えられています(前掲最高裁判所第二小法廷昭和43年8月2日判決など)。
そのため、背信的悪意者に対しては、対抗要件を備えていなくても、権利取得を主張できます。
背信的悪意者については、以下の過去問でも出題されています。
選択肢2の詳細解説:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢2
AがBとの売買契約をBの詐欺を理由に取り消す前に、Bの詐欺について悪意のCが、Bから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていた場合、AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる。
選択肢2では、「詐欺取消し前の第三者」が問題になっています。

詐欺取消し前の第三者
詐欺取消しされると、法律行為は遡及的に消滅します(民法96条1項、121条)。その法律行為を前提とした新たな法律行為も、覆ってしまうはずです。
しかし、何も知らずに取引をした後に、実は詐欺があったとして取引を覆されてしまうと、リスクが大きく、取引の安全を害します。
そこで、第三者を保護するため、善意無過失の第三者には、取消しによる遡及的消滅を対抗できないとされています(民法96条3項)。
この民法96条3項の「第三者」は、遡及効によって影響を受ける「詐欺取消し前の第三者」を指すと考えられています(選択肢1のとおり、詐欺取消し後の第三者は、対抗問題として処理されます。)。
選択肢2の結論
選択肢2では、Cは、AB間の売買契約が取り消される前に、Bから甲土地を買い受けて登記しています。いわゆる「詐欺取消し前の第三者」です。
前記のとおり、詐欺取消し前の第三者については、民法96条3項が適用されます。そして、第三者が保護されるためには、「善意無過失」であることが必要です。登記は関係ありません。
選択肢2のCは、詐欺取消し前の第三者ではあるものの、「悪意」です。そのため、民法96条3項による保護は受けられません。そのため、Aは、登記を備えていなくても、Cに対して甲土地の返還を請求できます。
したがって、「AはCに対して、甲土地の返還を請求することができる」とする選択肢2は正しいです。
選択肢3【差し替え】の詳細解説:◯(正しい)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢3
【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、AがBとの売買契約を錯誤を理由に取り消す前にCがBから甲土地を買い受けて所有権移転登記を備えていたとしても、CがAの錯誤について悪意であるときは、Aに重大な過失がなければ、Aは、Cに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
選択肢3は、民法改正があったため差し替えています。選択肢3差し替えでは、「錯誤取消し前の第三者」の問題に差し替えています。

錯誤取消し前の第三者
錯誤取消しされると、法律行為は遡及的に消滅します(民法95条、121条)。その法律行為を前提とした新たな法律行為も、覆ってしまうはずです。
しかし、何も知らずに取引をした後に、実は詐欺があったとして取引を覆されてしまうとすると、取引をする人のリスクが大きく、取引の安全を害します。
そこで、第三者を保護するため、善意無過失の第三者には、取消しによる遡及的消滅を対抗できないとされています(民法95条4項)。
この民法95条4項の「第三者」は、遡及効によって影響を受ける「錯誤取消し前の第三者」を指すと考えられています(後述のとおり、詐欺取消し後の第三者は、対抗問題として処理されます。)。
選択肢3【差し替え】の結論
前記のとおり、表意者に重過失がなければ、錯誤取消しが可能です。そして、本選択肢のCは錯誤取消し前の第三者ですが、悪意であるため、登記を備えていたとしても民法95条4項の保護を受けられません。
そのため、Aは、登記がなくても、Cに対して錯誤取消しを主張して、甲土地の返還を請求できます。
したがって、「Aは、Cに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる」とする選択肢3【差し替え】は正しいです。
【一歩進んで】錯誤取消し後の第三者
上記のとおり、錯誤取消し前の第三者は、民法95条4項により、善意無過失であれば保護されます。これに対して、錯誤取消し後の第三者には、民法95条4項は適用されません。
ただし、詐欺取消し後の第三者と同様、表意者と錯誤取消し後の第三者は対抗関係になり、登記の先後によって優劣が決められると考えられています。
そのため、仮に選択肢3【差し替え】のCが錯誤取消し後に甲土地を購入したとすれば、すでに登記を備えているため、AはCに甲土地の所有権の復帰を主張できず、返還を求めることもできないことになります。
補足:選択肢3差し替えの理由
差し替え前の選択肢3は、以下のとおりです。
Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失がなければ、Aは、Bから甲土地を買い受けたCに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
上記のとおり、差し替え前の選択肢3では、Aは「錯誤による意思表示の「無効」を主張して」います。令和元年度宅建試験当時、錯誤による意思表示は、当然に無効であると定められていたからです。
しかし、民法改正により、錯誤による意思表示は当然に無効ではなく「取消しできるもの」となりました。そのため、現在では不適当と考え、選択肢3を差し替えています。
選択肢4【差し替え】の詳細解説:×(誤り)
前提:AがBに甲土地を売却し、Bが所有権移転登記を備えた場合
選択肢4
【差し替え】Aの売却の意思表示が、表示行為に対応する意思を欠く錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである場合、Aに重大な過失があったとしても、Bが重大でない過失(軽過失)によりAの錯誤を知らなかったときは、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる。
選択肢4は、民法改正があったため差し替えています。選択肢4差し替えでは、「表意者に重過失がある場合の錯誤取消し」の問題に差し替えています。
錯誤取消しと表意者の重過失
錯誤が表意者の重大な過失に基づく場合、表意者は意思表示を取り消すことができません(民法95条3項柱書)。
ただし、以下の場合には、表意者に重過失があっても錯誤取消しが可能になります(民法95条3項各号)。
- 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
- 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
本選択肢では、Bには軽過失しかなく、悪意または重過失がありません。そのため、錯誤について重過失があるAは、Bに対して錯誤取消しを主張できません。
したがって、「AはBに対して、錯誤による当該意思表示の取消しを主張して、甲土地の返還を請求することができる」とする選択肢4差し替えは誤りです。
補足:選択肢4差し替えの理由
差し替え前の選択肢3は、以下のとおりです。
Aの売却の意思表示に要素の錯誤がある場合、Aに重大な過失があったとしても、AはBに対して、錯誤による当該意思表示の無効を主張して、甲土地の返還を請求することができる。
選択肢4も、民法改正前であるため、錯誤取消しの効果が当然に「無効」であるとされています。現在では、錯誤による意思表示は当然に無効ではなく、取消しできるものとなっています。
また、民法改正前は、表意者に重過失がある場合は取り消せないとされており、例外的事由についての規定はありませんでしたが、改正民法では、表意者に重過失がある場合でも、一定の事由があるときには取消しできることが明記されました。
そのため、現在では不適当と考え、選択肢4を差し替えています。
本問で覚えておくべきこと
宅建試験令和元年問2では、詐欺・錯誤による意思表示の取消しの基礎知識が問われています。意思表示の取消しも、宅建試験ではよく出題される分野です。以下の知識は覚えておきましょう。
- 詐欺取消し前の第三者の保護要件は、善意無過失(表意者は、善意無過失の第三者には詐欺取消しを主張できない)
- 詐欺取消し後の第三者と表意者は対抗関係になる(表意者は、登記を備えなければ、第三者に詐欺取消しによる権利の復帰を主張できない)
- 錯誤取消し前の第三者の保護要件は、善意無過失(表意者は、善意無過失の第三者には詐欺取消しを主張できない)
- 錯誤取消し後の第三者と表意者は対抗関係になる(表意者は、登記を備えなければ、第三者に錯誤取消しによる権利の復帰を主張できない)
- 表意者は、錯誤に重過失がある場合、意思表示を取り消せないのが原則
- 表意者に錯誤に重過失がある場合でも、相手方が悪意または重過失であるとき、もしくは相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときであれば、表意者は意思表示を取り消せる
- 錯誤による意思表示は、当然に無効ではなく、取り消し得る
意思表示の取消しや対抗問題については、以下の論点もあわせてまとめておきましょう。
意思表示の無効・取消しにおける第三者の保護要件【一覧表】
| 意思表示の欠缺・瑕疵 | 意思表示の効力 | 相手方の保護要件 | 第三者の保護要件 |
|---|---|---|---|
| 心裡留保 | 原則有効 ※相手方が悪意または過失がある場合は無効 | 善意・無過失 ※悪意または過失があると、意思表示が無効になる | 善意のみ |
| 虚偽表示 | 無効 | 保護なし | 善意のみ |
| 錯誤 | 取り消せる | 保護なし | 善意・無過失 |
| 詐欺 | 取り消せる | 保護なし | 善意・無過失 |
| 強迫 | 取り消せる | 保護なし | 保護なし |
第三者との対抗問題になるか否か【一覧表】
| 論点 | 〇〇前の第三者 | 〇〇後の第三者 |
|---|---|---|
| 錯誤取消しと第三者 | 対抗問題にならない 登記は不要。ただし、表意者は、錯誤取消し前の第三者が善意無過失の場合は、詐欺取消しを主張できない (民法95条4項) | 対抗問題になる 表意者・錯誤取消し後の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法177条) |
| 詐欺取消しと第三者 | 対抗問題にならない 登記は不要。ただし、表意者は、詐欺取消し前の第三者が善意無過失の場合は、詐欺取消しを主張できない (民法96条3項) | 対抗問題になる 被害者・詐欺取消し後の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法177条) |
| 強迫取消しと第三者 | 対抗問題にならない 被害者は、強迫取消し前の第三者が善意無過失であっても、登記なくして物権変動を主張できる(被害者が勝つ) | 対抗問題になる 被害者・強迫取消し後の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法177条) |
| 取得時効と第三者 | 対抗問題にならない 時効取得者は、取得時効完成前の第三者に対して、登記がなくても物権変動を主張できる(時効取得者が勝つ) | 対抗問題になる 時効取得者・取得時効完成後の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法177条) |
| 契約解除と第三者 | 対抗問題になる(学説では対抗問題そのものではない) 解除者・解除前の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法545条1項ただし書き) | 対抗問題になる 解除者・解除前の第三者のうち先に登記を備えた方が物権変動を主張できる (民法177条) |
関連する過去問
意思表示の取消しや対抗問題は、宅建試験で頻出の論点です。この機会に以下の過去問も検討してみましょう。
- 宅建試験令和2年度(10月)問6
動機の錯誤・錯誤取消しの要件 - 宅建試験令和6年度問1
意思能力と行為能力・公序良俗違反の追認・詐欺・錯誤の効力・他人物売買の効力 - 宅建試験令和7年度問1
論点:民法177条の第三者・契約解除と第三者・強迫取消しと第三者など - 宅建試験令和7年度問3
心裡留保の効力・虚偽表示と第三者・錯誤の効力・詐欺取消し前の第三者
他の資格試験でも、意思表示に関する出題があります。
- 行政書士試験令和3年度問27
意思表示の効力発生時期・公示による意思表示・意思表示の受領能力 - 行政書士試験令和4年度問27
民法94条2項の第三者の該当性



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