行政書士試験令和6年度問35の正解と解説【過去問】遺産分割・相続させる旨の遺言

この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。

行政書士試験令和6年度問35

共同相続における遺産分割に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

  1. 共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。
  2. 被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。
  3. 共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。
  4. 共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。
  5. 相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。

引用元:一般財団法人行政書士試験研究センターサイト

行政書士試験令和6年度問35の正解は「2」です。

このページでは、行政書士試験令和6年度問35を詳しく説明します。

行政書士試験令和6年度問35の正解と解説

行政書士試験令和6年度問35の正解と各選択肢の正誤

行政書士試験令和6年度問35の正解は「2」です。

本問では、遺産分割や特定財産承継遺言の知識が問われています。妥当なものは、選択肢2です。

選択肢正誤必要知識
選択肢1×(妥当でない)遺産分割協議は、債務不履行を理由として解除することはできない
選択肢2○(妥当である)・相続させる旨の遺言によって法定相続分を超える相続財産を取得した相続人は、その法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えない限り、権利取得を第三者に対抗できない
・相続させる旨の遺言によって法定相続分を超える預金債権を取得した相続人は、その法定相続分を超える部分については、債権譲渡の対抗要件を備えない限り、権利取得を第三者に対抗できない
選択肢3×(妥当でない)遺産分割前に処分された財産であっても、共同相続人全員の同意があれば遺産分割の対象にすることができる
選択肢4×(妥当でない)・遺産の一部分割も可能
・遺産分割協議が整わなかった場合、家庭裁判所に調停または審判を申し立てることができる
・遺産分割には期限が設けられていない
選択肢5×(妥当でない)・預金は遺産分割の対象になる
・遺産分割前であっても、共同相続人は、一定の範囲内で預金の一部を払い戻すことができる

選択肢1:×(妥当でない)

選択肢1
共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。

遺産分割協議は、債務不履行を理由として解除することはできないと考えられています(最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決)。

したがって、選択肢1は妥当ではありません。

選択肢2:◯(妥当である)

選択肢2
被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。

相続させる旨の遺言によって法定相続分を超える相続財産を取得した相続人は、その法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えない限り、権利取得を第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。

そして、承継した相続財産が債権である場合は、対抗要件として、債権譲渡の対抗要件を備える必要があります。

問題文の日本語に問題はありますが、「当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるとき」を「当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときに、法定相続分を超える部分については」の意味と解釈すれば、選択肢2は妥当です。

選択肢3:×(妥当でない)

選択肢3
共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。

遺産分割時に現存していない財産は、遺産分割の対象にならないのが原則です。

ただし、遺産分割前に処分された財産については、共同相続人全員の同意により、遺産分割の対象にできます(民法906条の2第1項)。

そのため、共同相続人の一人が遺産分割前に被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、共同相続人全員の同意により遺産分割の対象にできます。

したがって、選択肢3は妥当ではありません。

選択肢4:×(妥当でない)

選択肢4
共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。

遺産の一部だけ分割することは可能です(民法907条1項、2項)。

遺産分割協議が調わない場合、共同相続人は、家庭裁判所に調停を申し立てることができます(民法907条2項本文)。また、遺産分割審判には調停前置主義が適用されないので、調停ではなく審判を申し立てることも可能です。

そして、遺産分割には、期限は設けられていません。協議だけでなく、調停や審判の申立てにも期限はありません。

したがって、選択肢4は妥当ではありません。

選択肢5:×(妥当でない)

選択肢5
相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。

相続財産に属する銀行預金(払戻請求権)は、可分債権ではあるものの、遺産分割の対象になります(最高裁判所大法廷平成28年12月19日判決など)。

ただし、相続財産に属する預金は、遺産分割前であっても、一定の要件を充たす範囲内で、共同相続人が各自単独で引き出すことが可能です(民法909条の2)。

したがって、選択肢5は妥当ではありません。

詳細解説:本問を解くための前提知識

行政書士試験令和6年度問35では、主に共同相続における遺産分割の基礎知識が問われています。ただし、「共同相続における遺産分割」と言いつつ、相続させる旨の遺言についても出題されています。

各選択肢を詳細に解説する前に、相続の基礎知識を確認しておきましょう。

共同相続とは

共同相続とは、相続人が複数人いる場合の相続のことです。

この共同相続の場合、可分債権を除く相続財産は、原則として共同相続人全員の共有(相続財産が物でない場合は準共有)になります(遺産共有。民法898条1項)。

遺産共有になった相続財産は、他の共同相続人の同意を得ずに、各共同相続人か単独で使用したり処分したりできません。

遺産共有を解消して、個々の相続財産の具体的な帰属先を決めるには、共同相続人全員で遺産分割をする必要があります。

遺産分割とは

遺産分割とは、個々の相続財産の権利者を確定させるための手続です。この遺産分割には、以下の3つの手続があります。

遺産分割の手続
  • 遺産分割協議
    裁判外で共同相続人間で話し合って遺産分割する手続
  • 遺産分割調停
    裁判所が選任した調停委員を間に入れて、共同相続人間で話し合って遺産分割する裁判手続
  • 遺産分割審判
    共同相続人の主張・立証に基づいて、裁判所が遺産分割の内容を決定(審判)する裁判手続

遺産分割をして個々の相続財産の帰属が確定すれば、遺産分割で決まった内容に応じて、各相続人が単独で権利を行使できるようになります。

選択肢1の詳細解説:×(妥当でない)

選択肢1
共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた場合において、当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる。

選択肢1では、遺産分割協議の債務不履行解除の可否が問われています。

一定の負担を課す遺産分割

選択肢1では、ただ特定の相続人に相続財産を承継させるだけではなく、それと引き換えに一定の義務を課す内容の遺産分割がされています。

遺産分割では、このように特定の相続人に一定の負担を課すことも可能です。

したがって、本選択肢のように「共同相続人中の特定の1人に相続財産中の不動産の所有権を取得させる一方で当該相続人が老親介護を負担する義務を負う内容の遺産分割協議がなされた」としても、問題ありません。

遺産分割協議の債務不履行解除の可否

遺産分割協議を、債務不履行を理由として法定解除することはできないと考えられています(最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決)。

なぜなら、遺産分割は性質上協議の成立とともに終了し、その後は協議において債務を負担した相続人と債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけであるためです。

したがって、選択肢1の「当該相続人が遺産分割協議に定められた介護を行わない場合には、他の共同相続人は債務不履行を理由として遺産分割協議自体を解除することができる」とする部分は、妥当ではありません。

最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合に、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであつても、他の相続人は民法541条によつて右遺産分割協議を解除することができないと解するのが相当である。けだし、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、このように解さなければ民法909条本文により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである。

引用元:裁判所サイト

【一歩進んで】共同相続人全員による合意解除の可否

前記のとおり、債務不履行を理由として遺産分割協議を法定解除することはできません。

ただし、遺産分割協議は絶対に解除できないわけではありません。共同相続人全員の合意によって遺産分割を解除することは可能と考えられています(最高裁判所第一小法廷平成2年9月27日判決)。

単純に「遺産分割は解除できない」と覚えてしまうと、共同相続人全員の合意による解除は可能かが問われたときに間違えてしまいます。

「遺産分割協議は、債務不履行解除はできないが、共同相続人全員の合意で解除することは可能」まで覚えておきましょう。

最高裁判所第一小法廷平成2年9月27日判決

共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、上告人が主張する遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、原判決がこれを許されないものとして右主張自体を失当とした点は、法令の解釈を誤ったものといわざるを得ない。

引用元:裁判所サイト

選択肢2の詳細解説:◯(妥当である)

選択肢2
被相続人が、相続財産中の特定の銀行預金を共同相続人中の特定の1人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときには、当該預金債権の承継に関する債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない。

選択肢2では、遺産分割ではなく、相続させる旨の遺言の効力について問われています。

相続させる旨の遺言とは

相続させる旨の遺言とは、特定の共同相続人に遺産(相続財産)を「相続させる」と定める遺言のことです。

この相続させる旨の遺言のうち、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」を特定財産承継遺言といいます(民法1014条2項参照)。

特定財産承継遺言がある場合、遺産分割をしなくても、遺言の効力が発生した時(相続開始時)に、遺言で定められた特定の財産が特定の相続人に承継されます。

相続させる旨の遺言の第三者対抗力

相続させる旨の遺言がある場合に、その遺言によって相続財産を承継した相続人が、第三者に遺言があることを対抗できるか否かは、取得した財産が法定相続分の範囲内か否かによって違いがあります(民法899条の2第1項)。

取得した財産
法定相続分の範囲内の部分対抗要件を備えなくても、第三者に権利取得を対抗できる
法定相続分を超える部分対抗要件を備えなければ、第三者に権利取得を対抗できない

民法 第899条の2

  • 第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

引用元:e-Gov法令検索

相続財産が債権である場合の対抗要件

相続財産に属する銀行預金とは、法律的に言えば、銀行から預金を払い戻せる権利です。つまり、債権(預金債権、預金払戻請求権などと呼ばれます。)です。

前記のとおり、預金(債権)を相続によって取得した場合、この預金のうち法定相続分を超える部分については、対抗要件を備えなければ第三者に権利取得を対抗できません(民法899条の2第1項)。

そして、債権の第三者対抗要件は、債権譲渡における第三者対抗要件と同じです。具体的に言うと、以下の対抗要件が必要です。

債権の対抗要件
  • 債務者(銀行)に対する確定日付のある証書による通知
  • 債務者(銀行)からの確定日付のある証書による承諾

選択肢2の結論と疑義

公式では、選択肢2は妥当であり、正解とされています。ただし、選択肢2は問題文に一部疑義があります。

前記のとおり、対抗要件を備えなければならないのは、法定相続分の価額を超える部分だけです。法定相続分の範囲内の部分は、対抗要件を備えなくても第三者に対抗できます。

ところが、問題文では、「当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるとき」は「債権譲渡の対抗要件を備えなければ、当該預金債権の承継を第三者に対抗できない」としか書かれていません。

法定相続分の範囲内の部分は対抗要件を備えなくても第三者に対抗できるので、本選択肢の問題文の書き方だと、「全部を第三者に対抗できないわけではないので、選択肢2は誤り」と勘違いしてしまうおそれがあります。

「当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるとき」を「当該預金債権の価額が当該相続人の法定相続分の価額を超えるときに、法定相続分を超える部分については」の意味と解釈しなければ、選択肢2を正しいと判断できないかもしれません。

そのため、問題文に不適切な部分があると言えます。この問題文の不適切さから間違えてしまったとしても、気にする必要はありません。

選択肢3の詳細解説:×(妥当でない)

選択肢3
共同相続人の1人が、相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消した場合であっても、遺産分割の対象となる財産は、遺産分割時に現存する相続財産のみである。

選択肢3では、遺産分割の対象になる財産判定の基準時が問題となっています。

遺産分割の対象になる財産の範囲

遺産分割の対象になるのは、以下の要件を充たす財産です。

遺産分割の対象になる財産の範囲
  • 相続開始時に被相続人が有していた財産(相続財産)であること
  • プラスの財産(積極財産)であること
  • 遺産共有になる財産であること
  • 遺産分割時に現存していること

そのため、相続開始時には現存していたとしても、遺産分割する時にはすでに現存していない財産は、遺産分割の対象にならないのが原則です。

遺産分割前に処分された財産

上記のとおり、遺産分割時に現存していない財産は、遺産分割の対象になりません。

ただし、共同相続人の一部が勝手に売却・費消してしまった場合のように、遺産分割前に処分された財産は遺産分割の対象にならないとすると、勝手に処分した相続人だけ利益を得ることになり、不公平を生じるおそれがあります。

そこで、遺産分割前に処分された財産については、共同相続人全員の同意があれば遺産分割の対象にできます(民法906条の2第1項)。

本選択肢でも「相続開始後遺産分割の前に、被相続人が自宅に保管していた現金を自己のために費消」しているため遺産分割時には現存していないものであっても、共同相続人全員の同意で遺産分割の対象にできます。

したがって、選択肢3は妥当ではありません。

民法 第906条の2

  • 第1項 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

引用元:e-Gov法令検索

【一歩進んで】財産処分をした相続人の同意は不要

前記のとおり、遺産分割前に処分された財産も、共同相続人全員の同意があれば遺産分割の対象にできます。

また、遺産分割前に財産を処分したのが共同相続人の一部である場合は、その実際に財産を処分した共同相続人の同意は不要です(民法906条の2第2項)。

共同相続人の一部が遺産分割前に遺産を処分した場合は、その処分をした共同相続人の同意がなくても、それ以外の相続人全員が同意すれば、処分財産を遺産分割の対象にできます。

民法 第906条の2

  • 第2項 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

引用元:e-Gov法令検索

選択肢4の詳細解説:×(妥当でない)

選択肢4
共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができるが、相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない。

選択肢4では、遺産分割の期限が問われています。

遺産分割協議が調わない場合の調停・審判の申立ての可否

遺産分割が必要となる場合、共同相続人は全員で遺産分割協議をしなければいけません(民法907条1項)。

この協議ができなかった場合や調わなかった場合(話がつかなかった場合)、共同相続人は、家庭裁判所の手続を利用できます(民法907条2項本文)。

この家庭裁判所の手続には、遺産分割調停と審判があります。

家庭裁判所での審判では、審判を申し立てる前に調停を申し立てなければならないとするルール(調停前置主義)が設けられていることが多いです。

しかし、遺産分割の審判では、調停前置主義は適用されません。そのため、協議が調わなかった場合、共同相続人は、遺産分割調停と審判のどちらでも申し立てることができます。

民法 第907条

  • 第1項 共同相続人は、次条第1項の規定により被相続人が遺言で禁じた場合又は同条第2項の規定により分割をしない旨の契約をした場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。
  • 第2項 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。

引用元:e-Gov法令検索

遺産の一部も分割できる

遺産の全部ではなく、一部だけ分割することも可能です(民法907条1項、2項)。ただし、最終的には全部の遺産を分割する必要はあります。

したがって、本選択肢の「共同相続人は、原則としていつでも協議によって遺産の全部または一部の分割をすることができ、協議が調わないときは、家庭裁判所に調停または審判の申立てをすることができる」とする部分は妥当です。

遺産分割には期限がない

遺産分割には、期限は設けられていません。協議であれ、調停・審判であれ、期限はありません。

相続開始から10年経過していても、遺産分割協議をすることも、調停・審判を申し立てることも可能です。

したがって、「相続開始から10年以上放置されていた遺産の分割については、家庭裁判所に対して調停または審判の申立てを行うことができない」とする部分は、妥当ではありません。

補足:相続開始から10年経過するとできなくなること

前記のとおり、相続開始から10年経過していようと、遺産分割調停や審判は申し立てられます。

ただし、相続開始から10年を経過していると、遺産分割調停や審判の手続内で、特別受益や寄与分の主張ができなくなります(民法904条の3ただし書)。

あくまで手続内で特別受益や寄与分の主張ができなくなるだけであり、遺産分割調停や審判自体ができなくなるわけではありません。間違えないように注意しましょう。

民法 第904条の3

  • 前三条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
  • 第1号 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。
  • 第2号 相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

引用元:e-Gov法令検索

選択肢5の詳細解説:×(妥当でない)

選択肢5
相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となるから、相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない。

選択肢5では、遺産分割前の預金払戻しの可否が問題になっています。

銀行預金も遺産分割が必要

前記のとおり、金銭その他の可分債権は、共同相続の場合であっても遺産共有にならず、遺産分割も不要と考えられています(最高裁判所第一小法廷昭和29年4月8日判決など)。

ただし、金銭債権のうちでも、銀行預金(の払戻請求権)については、遺産共有となり遺産分割が必要であると考えられています(最高裁判所大法廷平成28年12月19日判決など)。

したがって、選択肢5の「相続財産中に銀行預金が含まれる場合、当該預金は遺産分割の対象となる」との部分は妥当です。

最高裁判所大法廷平成28年12月19日判決

共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。

引用元:裁判所サイト

共同相続人は単独で預金を払い戻せる

前記のとおり、預金も遺産共有になるので、本来なら遺産分割するまで、各共同相続人が単独で預金を払い戻すことはできないはずです。

もっとも、葬儀費用などのため預金を払い戻す必要性が生じることは多いです。

そこで、例外的に、共同相続人は、遺産分割前であっても、一定の範囲で相続財産に属する預金を単独で払い戻せる制度が設けられています。「預金仮払い制度」「預金債権の一部行使制度」などと呼ばれています(民法909条の2)。

この預金仮払い制度では、払い戻せる金額に上限はあるものの、特に目的は限定されていません。

したがって、「相続開始後遺産分割の前に、当該預金口座から預金の一部を引き出すためには共同相続人の全員の同意が必要であり、目的、金額のいかんを問わず相続人の1人が単独で行うことは許されない」とする部分は、妥当ではありません。

民法 第909条の2

  • 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の3分の1に第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

引用元:e-Gov法令検索

本問で覚えておくべき知識

行政書士試験令和6年度問35では、遺産分割や相続させる旨の遺言の基礎知識が問われています。

この機会に、以下の知識を習得しておきましょう。

本問で覚えておくべき知識
  • 特定の相続人に負担を課す遺産分割も有効
  • 遺産分割協議は、債務不履行を理由として解除することはできないが、共同相続人全員の合意で解除することは可能
  • 相続によって法定相続分を超える財産を承継した相続人は、法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に権利取得を対抗できない
  • 相続によって法定相続分を超える財産を承継した相続人であっても、法定相続分の範囲内の部分については、対抗要件を備えなくても第三者に権利取得を対抗できる
  • 遺産分割の基準時は、共同相続人の合意で決められる
  • 遺産分割前に処分された財産であっても、共同相続人全員の同意があれば遺産分割の対象にできる
  • 遺産分割審判には調停前置主義が適用されない
  • 遺産の一部分割も可能
  • 遺産分割には期限がない
  • 銀行預金は、遺産分割の対象になる
  • 遺産分割前であっても、共同相続人が単独で預金を払い戻すことは可能

関連する過去問

遺産分割や特定財産承継遺言については、以下でも出題されています。

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