この記事は、法トリ(元弁護士)が書いています。
行政書士試験令和6年度問29
甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当でないものはどれか。
- 遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
- 遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
- Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
- Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
- Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
行政書士試験令和6年度問29の正解は「4」です。
このページでは、行政書士試験令和6年度問29を詳しく説明します。

行政書士試験令和6年度問29の正解と各選択肢の正誤
行政書士試験令和6年度問29の正解は「4」です。
選択肢4が妥当でなく、それ以外の選択肢は妥当です。本問では、いわゆる「相続と第三者(相続と登記)」に関する論点が総合的に出題されています。
なお、本問は、「妥当でないもの」を選択する問題です。基本的なことですが、妥当なものを選ぶ問題ではないので、問題文の読み間違いには注意しましょう。
| 選択肢 | 正誤 | 必要知識 |
|---|---|---|
| 選択肢1 | ○(妥当である) | 各共同相続人は、登記を備えなくても、自己の法定相続分に基づく持分権を第三者に主張できる |
| 選択肢2 | ○(妥当である) | 遺産分割で権利を取得した相続人は、登記を備えなければ、自己の法定相続分を超える部分も遺産分割で取得したことを第三者に主張できない |
| 選択肢3 | ○(妥当である) | 遺贈を受けた相続人は、登記を備えなければ、自己の法定相続分を超える部分も遺贈で取得したことを第三者に主張できない |
| 選択肢4 | ×(妥当でない) | 相続放棄をした者がいる場合、他の相続人は、登記を備えなくても、相続放棄により変動した持分を第三者に主張できる |
| 選択肢5 | ○(妥当である) | 特定財産承継遺言を受けた相続人は、登記を備えなければ、自己の法定相続分を超える部分を特定財産承継遺言で取得したことを主張できない |
選択肢1:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢1
遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
各共同相続人は、登記を備えなくても、自己の法定相続分に基づく持分権を第三者に主張できます(民法899条の2第1項)。
選択肢1でも、CはDに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張できます。したがって、選択肢1は妥当です。
選択肢2:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢2
遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
遺産分割前の第三者が登記を備えた場合、遺産分割により権利を取得した共同相続人は、自己の法定相続分を超える部分の権利取得を第三者に主張できません。
そのため、Bの法定相続分に基づく持分権を譲り受けたEが登記を備えた場合、CはEに対して、自己の法定相続分を超えるEの持分権が自己に帰属する旨を主張することができません。
したがって、選択肢2は妥当です。
選択肢3:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢3
Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
第三者が所有権移転登記を備えた場合、遺贈を受けた相続人(受遺者)は、自己の法定相続分を超える部分の権利取得を第三者に主張できません。
そのため、Bの法定相続分に基づく持分権を譲り受けたFが登記を備えた場合、CはFに対して、自己の法定相続分を超えるFの持分権が自己に帰属する旨を主張することができません。
したがって、選択肢3は妥当です。
選択肢4:×(妥当でない)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢4
Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
相続放棄には絶対的効力があります。放棄者以外の相続人は、相続登記手続をしていなくても、差押債権者に対して相続放棄による差押えの無効を主張できます。
そのため、Cは、相続登記手続をしていなくても、Gに対して差押えの無効を主張できます。したがって、選択肢4は妥当ではありません。
選択肢5:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢5
Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
第三者が所有権移転登記を備えた場合、特定財産承継遺言により特定の財産を相続した相続人は、自己の法定相続分を超える部分の権利取得を第三者に主張できません。
そのため、Bの法定相続分に基づく持分権を譲り受けたHが登記を備えた場合、CはHに対して、自己の法定相続分を超えるHの持分権が自己に帰属する旨を主張することができません。
したがって、選択肢5は妥当です。
本問を解くための前提知識
行政書士試験令和6年度問29では、相続により取得した権利を第三者に対抗できるのかが問われています。
甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。

本問では、上記の前提事例が与えられています。まずは、この前提事例をもとに、相続の基礎知識を確認してみましょう。

BとCの共同相続
本問では、甲土地を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始しています。相続の開始によって、甲土地の所有権は、BCに承継されます。
ただし、相続人が複数人いるため、甲土地は、BCがそれぞれの相続分に応じて共有(遺産共有)することになります。この遺産共有状態を解消するには、遺産分割の手続をする必要があります。
法定相続分とは?
上記のとおり、相続人が複数人いる共同相続の場合、各共同相続人には、相続財産に対する取り分として「相続分」が割り振られます。
この相続分は、遺言で指定できます(指定相続分。民法902条1項)。遺言による指定がない場合は、民法で定められた相続分で決まります。この民法で定められた相続分を「法定相続分」といいます。
法定相続分は、同順位の相続人間では頭数に応じた按分になります(民法900条4号)。
本問の場合、相続人はBCはいずれも被相続人Aの子であるため、同順位です。そのため、BとCの法定相続分は、いずれも2分の1ずつになります。
民法899条の2第1項
民法 第899条の2
- 第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
本問では、民法899条の2第1項の理解が必要です。この民法899条の2第1項は、単純です。
- 共同相続人は、自分の法定相続分の範囲内であれば、登記を備えなくても、第三者に相続による権利取得を主張できる
- 一方、自分の持分のうち法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者に相続による権利取得を主張できない
登記を備えなくても相続による権利取得を主張できるのは「自分の持分」かつ「法定相続分の範囲内」だけです。
相続によって他の共同相続人の法定相続分に属する部分(自分の法定相続分を超える部分)を取得したとしても、それを第三者に主張するには登記を備えなければいけません。
なお、最二小判昭和38年2月22日では、法定相続分であるか否かにかかわらず、各共同相続人は自分の持分を登記がなくても第三者に対抗できると判断されていましたが、民法改正により、登記を備えなくても対抗できる範囲が、法定相続分の範囲内に限定されることになりました。
法定相続分を超える相続による権利取得と対抗問題
上記のとおり、相続によって法定相続分を超えて権利を取得した場合、権利取得を第三者に対抗するには、登記を備える必要があります。ここで言う「第三者」とは、民法177条の第三者です。
つまり、相続による権利取得者と第三者は、民法177条の対抗関係に立つのです。そのため、対抗問題の基本ルールどおり、「先に登記を備えた方が勝つ」ことになります。
ただし、相続放棄だけはルールが適用されないので注意が必要です(選択肢4)。
選択肢1の詳細解説:○(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢1
遺産分割が終了していないにもかかわらず、甲につきBが虚偽の登記申請に基づいて単独所有名義で相続登記手続を行った上で、これをDに売却して所有権移転登記手続が行われた場合、Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる。
選択肢1は、共同相続により遺産共有している場合に、法定相続分に基づく持分を登記なくして第三者に主張できるかどうかが問われています。いわゆる「共同相続(遺産共有)と第三者」の論点です。
遺産共有と第三者(法定相続分に基づく持分権)
前記のとおり、選択肢1ではまだ遺産分割していないので、BとCがそれぞれの相続分に応じて甲土地を共有している状態です。それにもかかわらず、BがCの相続分も含めて甲土地の全部をDに売却し、登記も済ませてしまっています。
このような場合、他の共同相続人は、登記を備えなくても、共同相続人のひとりから相続不動産を譲り受けた第三者に自己の法定相続分に基づく持分権を主張できます(民法899条の2第1項)。
そのため、Cは、自分の法定相続分をDに主張できます。
したがって、「Cは、Dに対して、Cの法定相続分に基づく持分権を登記なくして主張することができる」とする選択肢1は、妥当です。
「遺産分割前の第三者」と混同に注意!
本選択肢には「遺産分割が終了していないにもかかわらず」と書いてあるので、いわゆる「遺産分割前の第三者(本問選択肢2)」の問題と勘違いしてしまいそうです。
しかし、選択肢1は、遺産分割前の第三者の問題ではありません。「遺産分割未了の遺産共有状態の場合の第三者」の問題です。
遺産分割前の第三者は、「すでに遺産分割が終わった後に、実は遺産分割前に取引していた第三者がいた場合にどう考えるのか」の問題です。
選択肢1では、そもそもまだ遺産分割をしていません。そのため、遺産分割前の第三者の論点とは違います。違う問題である点には注意です。
なお、仮に遺産分割前の第三者の場合も、選択肢1と同様、法定相続分に基づく持分権については登記を備えなくても第三者に対抗できる点では同じです(民法899条の2第1項)。
【一歩進んで】法定相続分を超える部分は対抗できるか?
選択肢1で、仮にCの相続分を4分の3とする旨の遺言(相続分の指定)があった場合は、どうなるでしょうか?
この場合、Cは、「法定相続分」である2分の1部分については、登記がなくても第三者に持分を主張できます。
しかし、法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者に相続分指定により持分があることを主張できません(民法899条の2第1項)。
つまり、法定相続分を超える部分については、CとDは対抗関係になります。そして、Dが登記を備えている以上、Cは、法定相続分を超える部分(4分の3−2分の1=4分の1)についてはDに対抗できないことになります。
選択肢2の詳細解説:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢2
遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
選択肢2は、いわゆる「遺産分割前の第三者」の論点です。遺産分割によって法定相続分を超える権利を取得した相続人が、登記を備えないでも、遺産分割前に現れた第三者に遺産分割による権利取得を主張できるのかが問われています。
遺産分割前の第三者
遺産分割が完了すると、その効力は相続開始時に遡って生じます(遡及効。民法909条本文)。
選択肢2に当てはめると、甲土地全部の所有権は、相続が開始した時からCが有していた扱いになり、他方、Bは相続開始時から甲土地について何の権利もなかった扱いになるはずです。
そうすると、Bは何の権利もないのにEに甲土地を売却したことになるので、Cは、登記がなくても、Eに甲土地全部の所有権を主張できるのが原則です。
しかし、遺産分割という外部からは知りにくい事情によって取引が覆されると、リスクが大きいため誰も取引をしたがらなくなり、取引の安全が害されます。
そこで、民法909条ただし書きは、「ただし、第三者の権利を害することはできない」と定めています。Eが、民法909条ただし書きによって保護される「第三者」に該当するか否かが選択肢2の問題です。
民法 第909条
- 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
引用元:e-Gov法令検索
民法909条ただし書きの第三者の保護要件
民法909条ただし書きには規定されていないものの、遺産分割前の第三者が保護されるためには、権利保護要件として「対抗要件を備えていること」が必要と考えられています(最高裁判所第一小法廷昭和33年6月14日判決)。
対抗要件とは、本問で言えば、甲土地の所有権移転登記です。選択肢2では、Eはすでに甲土地の所有権移転登記を備えているので、民法909条ただし書きにより保護されます。
そのため、Cは、Eに対して、遺産分割によってEが購入した持分権も自分に属することになったと主張できません。
したがって、「Cは、Eに対して、Eの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない」とする選択肢2は、妥当です。
最高裁判所第一小法廷昭和33年6月14日判決
第三者が本件のように不動産の所有権を取得した場合はその所有権について不動産登記の経由されていることを必要とするものであつて、もし右登記を経由していないときは第三者として保護するを得ないものと解すべきである。けだし右第三者を民法一七七条にいわゆる第三者の範囲から除外しこれを特に別異に遇すべき何らの理由もないからである。
引用元:裁判所サイト
【一歩進んで】BがEに甲土地全部を売却していた場合はどうなる?
本選択肢の事例で、BがEに売却したのが、Bの持分だけでなく、Cの持分を含めた甲土地全部の所有権であった場合はどうなるでしょうか?
まず、選択肢2のとおり、Bの法定相続分に基づく持分部分(Cの法定相続分を超える部分)については、Cは登記を備えなければ、Eに対して、遺産分割でBの法定相続分に基づく持分部分の権利も取得したことを主張できません。
一方、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については、民法899条の2第1項により、登記がなくてもEに権利取得を主張できます。
そのため、BがEに甲土地全部を売却してEが登記を備えた場合、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については権利を主張できますが、自分の法定相続分を超える部分については権利を主張できないことになります。
【さらに進んで】遺産分割後の第三者
本問選択肢2では「遺産分割前の第三者」が出題されています。これと関連する論点として、本問では問われていませんが、「遺産分割後の第三者」の論点あります。こちらも頻出の論点です。
遺産分割後の第三者とは、遺産分割をした後に第三者が現れた場合に、遺産分割により権利を取得した相続人がその第三者に対して権利を主張できるかの問題です。
例えば、選択肢2で、遺産分割により甲をCが単独で相続することとなったのが、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをEに売却して持分権移転登記手続が行われた後であった場合です。
この場合、Bを起点として「B→C」への遺産分割よる持分権の移動と「B→E」への売買契約による持分権の移転の2つの相反する矢印が生まれ、二重譲渡のような関係性になります。
そのため、相続人と遺産分割後の第三者の関係は、民法177条の対抗関係になると解されています(最高裁判所第三小法廷昭和46年1月26日判決)。そして、対抗関係である以上、「先に対抗要件(登記)を備えた方が勝つ」ことになります。
なお、遺産分割後の第三者の場合も民法899条の2第1項の適用があるので、登記を備えなければ対抗できないのは、法定相続分を超える部分に限られます。
最高裁判所第三小法廷昭和46年1月26日判決
遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼつてその効力を生ずるものではあるが、第三者に対する関係においては、相続人が相続によりいつたん取得した権利につき分割時に新たな変更を生ずるのと実質上異ならないものであるから、不動産に対する相続人の共有持分の遺産分割による得喪変更については、民法一七七条の適用があり、分割により相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することができないものと解するのが相当である。
引用元:裁判所サイト
選択肢3:◯(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢3
Aが甲をCに遺贈していたが、Cが所有権移転登記手続をしないうちに、Bが甲に関する自己の法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続きを行った上で、これをFに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
選択肢3で問われているのは、「特定遺贈と第三者」の論点です。特定遺贈を受けた相続人(受遺者)が、第三者に対して自分の法定相続分を超える持分を主張できるのかが問題となっています。
特定遺贈とは?
遺贈とは、遺言によって相続財産を特定の相続人または第三者に贈与することです。遺贈する財産が特定のものである場合を、特定遺贈といいます。
特定遺贈がある場合、相続開始時に、遺贈された相続財産が受遺者に承継されます。遺産共有にならないので、遺産分割も不要です。
選択肢3では、AがCに遺贈したのは甲土地という特定の財産です。そのため、選択肢3の遺贈は、特定遺贈です。
特定遺贈と第三者
選択肢3では、特定遺贈が行われています。甲土地の所有権全部は、相続開始時にCに移転し、Bは甲土地について何の権利も持たないことになります。
そうすると、無権利のBがFに甲土地を売却したにすぎないので、Cは対抗要件を備えていなくても、Fに対して甲土地全部の所有権が自分のものであることを主張できるはずです。
しかし、遺贈による財産所有権の移転も物権変動です。そのため、受遺者と他の相続人から財産を譲り受けた第三者は対抗関係になり、先に登記を備えた方が権利を主張できると考えられています(最高裁判所第二小法廷昭和39年3月6日判決)。
そのため、選択肢3のCは、自分の法定相続分を超える部分(FがBから譲り受けた持分権)が遺贈によって自分に帰属したことを、すでに登記を備えているFに対して主張できません。
したがって、「Cは、Fに対して、Fの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない」とする選択肢3は妥当です。
最高裁判所第二小法廷昭和39年3月6日判決
不動産の所有者が右不動産を他人に贈与しても、その旨の登記手続をしない間は完全に排他性ある権利変動を生ぜず、所有者は全くの無権利者とはならないと解すべきところ(当裁判所昭和三一年(オ)一〇二二号、同三三年一〇月一四日第三小法廷判決、集一二巻一四号三一一一頁参照)、遺贈は遺言によつて受遺者に財産権を与える遺言者の意思表示にほかならず、遺言者の死亡を不確定期限とするものではあるが、意思表示によつて物権変動の効果を生ずる点においては贈与と異なるところはないのであるから、遺贈が効力を生じた場合においても、遺贈を原因とする所有権移転登記のなされない間は、完全に排他的な権利変動を生じないものと解すべきである。そして、民法一七七条が広く物権の得喪変更について登記をもつて対抗要件としているところから見れば、遺贈をもつてその例外とする理由はないから、遺贈の場合においても不動産の二重譲渡等における場合と同様、登記をもつて物権変動の対抗要件とするものと解すべきである。
引用元:裁判所サイト
【一歩進んで】BがFに甲土地全部を売却していた場合はどうなる?
例えば、本選択肢の事例で、BがFに売却したのが、Bの持分だけでなく、Cの持分を含めた甲土地全部の所有権であった場合はどうなるでしょうか?
この場合、遺贈によって相続人に財産が受け継がれるのも、相続による権利取得に含まれるので、民法899条の2第1項の適用があります。
選択肢3のとおり、Bの法定相続分に基づく持分部分(Cの法定相続分を超える部分)については、Cは登記を備えなければ、Fに対して、遺贈でBの法定相続分に基づく持分部分の権利も取得したことを主張できません。
一方、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については、民法899条の2第1項により、登記がなくてもFに権利取得を主張できます。
そのため、BがFに甲土地全部を売却してFが登記を備えた場合、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については権利を主張できますが、自分の法定相続分を超える部分については権利を主張できないことになります。
選択肢4の詳細解説:×(誤り)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢4
Bが相続を放棄したため、甲はCが単独で相続することとなったが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bの債権者であるGが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき差押えを申し立てた場合、Cは、当該差押えの無効を主張することができない。
選択肢4は、いわゆる「相続放棄と第三者」の論点です。この相続放棄と第三者は、相続と第三者の論点の中で最も違いが生じます。
相続放棄とは?
相続放棄とは、相続しない旨の意思表示のことです。相続放棄をすると、その放棄者は、相続開始時に遡って相続人ではなかったとみなされます(遡及効。民法939条)。
放棄者が相続人ではなかったことになるので、相続財産は、他の相続人(または放棄者より後順位の相続人)が受け継ぐことになります。
選択肢4に当てはめると、相続放棄をしたBはじめから相続人ではなかった扱いになるので、甲土地について何の権利も有しません。甲土地の所有権は全部Cのもの(単独相続)になります。
そうすると、Gは、債務者Bの財産ではないもの(Cの財産)を差し押さえていることになり、差押えの効力は生じません。
民法 第939条
- 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
引用元:e-Gov法令検索
相続放棄には第三者保護規定がない
問題となるのは、相続放棄によって権利を受け継ぐことになった相続人が、登記を備えてなくても第三者に権利取得を主張できるか否かです。
この点、相続放棄の効力は、絶対的効力です。遺産分割のような遡及効を制限して第三者の保護を図る規定がありません。
そのため、相続放棄をする前の第三者は、登記を備えていようと保護されないと考えられています(最高裁判所第二小法廷昭和42年1月20日判決)。
選択肢4でも、Bの相続放棄によってBが受け継ぐはずだった部分も含めて甲土地全部の所有権を取得したCは、登記を備えなくても、Gに相続放棄による権利取得を主張でき、その結果、差押えの無効も主張できることになります。
したがって、「Cは、当該差押えの無効を主張することができない」とする選択肢4は妥当ではありません。
最高裁判所第二小法廷昭和42年1月20日判決
民法九三九条一項(昭和三七年法律第四〇号による改正前のもの)「放棄は、相続開始の時にさかのぼつてその効果を生ずる。」の規定は、相続放棄者に対する関係では、右改正後の現行規定「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかつたものとみなす。」と同趣旨と解すべきであり、民法が承認、放棄をなすべき期間(同法九一五条)を定めたのは、相続人に権利義務を無条件に承継することを強制しないこととして、相続人の利益を保護しようとしたものであり、同条所定期間内に家庭裁判所に放棄の申述をすると(同法九三八条)、相続人は相続開始時に遡ぼつて相続開始がなかつたと同じ地位におかれることとなり、この効力は絶対的で、何人に対しても、登記等なくしてその効力を生ずると解すべきである。
引用元:裁判所サイト
選択肢5の詳細解説:○(妥当である)
前提:甲土地(以下「甲」という)を所有するAが死亡して、その子であるBおよびCについて相続が開始した。
選択肢5
Aが「甲をCに相続させる」旨の特定財産承継遺言を行っていたが、Cが相続登記手続をしないうちに、Bが甲に関するBの法定相続分に基づく持分権につき相続登記手続を行った上で、これをHに売却して持分権移転登記手続が行われた場合、民法の規定によれば、Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない。
選択肢5で問われているのは、「特定財産承継遺言と第三者」の論点です。特定財産承継遺言によって特定財産を相続した相続人が、登記を備えずに第三者に権利取得を主張できるのかが問われています。
特定財産承継遺言とは?
特定財産承継遺言とは、「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言」のことです(民法1014条2項)。
要するに、特定の相続財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言のことを、特定財産承継遺言といいます。
特定財産承継遺言がある場合、対象の財産は、相続開始時に対象の相続人に承継されます。遺産共有にならず、遺産分割は不要です。
特定財産承継遺言と第三者
特定財産承継遺言と第三者の関係についても、選択肢3の遺贈の場合の受遺者である相続人と第三者の関係と同じように考えることができます。
つまり、特定財産承継遺言の場合も、遺贈と同様、特定財産承継遺言を受けた相続人は、自分の法定相続分に属する持分については登記がなくても第三者に権利取得を主張できますが、自分の法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ第三者に権利取得を主張できません(民法899条の2第1項)。
そのため、特定財産承継遺言を受けたCは、すでに登記を備えているHに対して、特定財産承継遺言によってBの持分も自分のものになっていることを主張できません。
したがって、「Cは、Hに対して、Hの持分権が自己に帰属する旨を主張することができない」とする選択肢5は妥当です。
なお、最高裁判所第二小法廷平成14年6月10日判決では、法定相続分であるか否かにかかわらず、相続人は登記がなくても第三者に特定財産承継遺言による権利取得を対抗できると判断されていましたが、民法改正により、登記を備えなくても対抗できる範囲が、法定相続分の範囲内に限定されることになりました。
【一歩進んで】BがHに甲土地全部を売却していた場合はどうなる?
例えば、本選択肢の事例で、BがHに売却したのが、Bの持分だけでなく、Cの持分を含めた甲土地全部の所有権であった場合はどうなるでしょうか?
この場合も、特定財産承継遺言によって相続人に財産が受け継がれるのも、相続による権利取得に含まれるので、民法899条の2第1項の適用があります。
選択肢5のとおり、Bの法定相続分に基づく持分部分(Cの法定相続分を超える部分)については、Cは登記を備えなければ、Hに対して、特定財産承継遺言でBの法定相続分に基づく持分部分の権利も取得したことを主張できません。
一方、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については、民法899条の2第1項により、登記がなくてもHに権利取得を主張できます。
そのため、BがHに甲土地全部を売却してHが登記を備えた場合、Cは、自分の法定相続分に基づく持分については権利を主張できますが、自分の法定相続分を超える部分については権利を主張できないことになります。
本問で覚えておくべきこと
行政書士試験令和6年度問29は、相続全般について、相続人と第三者の関係を問う問題です。
この機会に、相続と第三者についてまとめておきましょう。特に、民法899条の2第1項を覚えておくことが重要です。
民法899条の2第1項のルール
共同相続人のひとりが第三者に相続財産を譲渡した場合、民法899条の2第1項による相続の基本ルールは、以下のとおりです。
- 他の共同相続人は、自分の法定相続分の範囲内の持分であれば、登記を備えなくても、第三者に相続による権利取得を主張できる。
- 一方、自分の法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者に相続による権利取得を主張できない。
民法899条の2第1項のルールは、相続によって権利を取得した場合全般に通用します。本問は、このルールを知っているだけで正解を導けます。
- 遺産共有と第三者
遺産共有状態のときに、共同相続人のひとりが、相続財産を第三者に譲渡したケース - 遺産分割前の第三者
共同相続人のひとりが相続財産を第三者に譲渡した後に、他の共同相続人が相続財産を法定相続分を超えて取得したケース - 遺産分割後の第三者
共同相続人のひとりが相続財産を第三者に譲渡する前に、他の共同相続人が相続財産を法定相続分を超えて取得していたケース - 特定遺贈と第三者
特定の共同相続人が遺贈により相続財産を法定相続分を超えて取得したが、他の共同相続人が相続財産を第三者に譲渡したケース - 特定財産承継遺言と第三者
特定の共同相続人が特定財産承継遺言により相続財産を法定相続分を超えて取得したが、他の共同相続人が相続財産を第三者に譲渡したケース
相続放棄だけは基本ルールが通用しない
ただし、上記と異なるルールがあるのが「相続放棄」です。
- 法定相続人の一部が相続放棄した場合、放棄者も含めて他の相続人も、登記を備えなくても、相続放棄により放棄者が相続財産を受け継がないこと(放棄により相続分が変わったこと)を第三者に主張できる
「相続放棄の場合、第三者は保護されない」と覚えておきましょう。
相続と第三者のまとめ一覧
相続と第三者の論点で、相続によって権利を取得した相続人が第三者に権利取得を対抗できるか否かをまとめると、以下のようになります。
| 論点 | 法定相続分に基づく持分 | 法定相続分を超える部分 |
|---|---|---|
| 共同相続(遺産共有)と第三者 | 登記は不要 | 登記が必要 |
| 遺産分割前の第三者 | 登記は不要 | 登記が必要 |
| 遺産分割後の第三者 | 登記は不要 | 登記が必要 |
| 特定遺贈と第三者 | 登記は不要 | 登記が必要 |
| 特定財産承継遺言と第三者 | 登記は不要 | 登記が必要 |
| 相続放棄と第三者 | 登記は不要 | 登記は不要 |
関連する過去問
この機会に、不動産物権変動の対抗要件が出題された他の過去問も解いてみましょう。
- 行政書士試験令和5年度問28
論点:取得時効と第三者
「相続と第三者」「相続と登記」は、他の資格試験でも出題されています。
- 宅建試験令和3年度(12月)問6
論点:民法177条の第三者・取得時効と第三者・共同相続と第三者など




