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行政書士試験令和6年度問30
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。
- Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
- Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
- AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
- Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
- CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。
行政書士試験令和6年度問30の正解は「3」です。
このページでは、行政書士試験令和6年度問30を詳しく説明します。

行政書士試験令和6年度問30の正解と各選択肢の正誤
行政書士試験令和6年度問30の正解は「3」です。
行政書士試験令和6年度問30では、抵当権と賃借権の関係や抵当権の物上代位に関する知識が問われています。
| 選択肢 | 正誤 | 必要知識 |
|---|---|---|
| 選択肢1 | ×(妥当でない) | ・賃借人は、抵当権者が抵当権設定登記を備えるよりも先に対抗要件を備えなければ、抵当権者に対して賃借権を対抗できない ・抵当権者が、賃借権を対抗できない賃借人に抵当不動産の明渡しを求めることができるのは、①占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、②占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態がある場合に限られる |
| 選択肢2 | ×(妥当でない) | ・賃借人が抵当権者に賃借権を対抗できない場合、抵当権の実行による競売の買受人に対しても賃借権を対抗できない ・建物賃借人は、買受人に賃借権を対抗できない場合であっても、買受人の買受時から6か月を経過するまでは、建物の明渡しが猶予される |
| 選択肢3 | ○(妥当である) | ・債務者が債務を履行しない場合、抵当権者は、物上代位により、債務者が有する抵当不動産から生じた賃料債権を差し押さえることができる ・賃料債権の譲受人が債権譲渡の対抗要件を備えている場合であっても、抵当権者は、物上代位により、賃料の払渡し前であれば賃料債権を差し押さえることができる |
| 選択肢4 | ×(妥当でない) | ・抵当権者が賃借権を対抗できない賃借人に対して、自身への抵当不動産の明渡しを求めることができるのは、前記選択肢1の①・②の要件に加え、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合に限られる |
| 選択肢5 | ×(妥当でない) | ・抵当権者は、抵当不動産の転貸借賃料を物上代位によって差し押さえることはできない |
選択肢1:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢1
Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
不動産の抵当権者と同一不動産の賃借人は、対抗関係となり、賃借人は対抗要件を備えなければ、賃借権を抵当権者に対抗できません(民法605条)。
ただし、抵当権者が賃借人に不動産の明け渡しを求めることができるのは、以下の要件を充たす場合に限られます(最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決)。
- 占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
- 占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
選択肢1では具体的な事情が不明であるため、Cの賃借権は抵当権設定登記を備えているBに対抗できないものの、Bが直ちに甲建物の明け渡しを請求できるとは限りません。
したがって、選択肢1は妥当ではありません。
選択肢2:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢2
Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
不動産の抵当権者と同一不動産の賃借人は、対抗関係となり、賃借人は対抗要件を備えなければ、賃借権を抵当権者に対抗できません(民法605条)。
そして、賃借人が抵当権者に賃借権を対抗できない場合、抵当権の実行による競売の買受人に対しても賃借権を対抗できません。
買受人は所有者であり、抵当権者ではないので、抵当権設定者等に競売妨害の目的があるか否かなどにかかわらず、賃借人に明渡しを請求できます。そのため、買受人Dは、賃借人Cに甲建物の明渡しを請求できます。
ただし、買受人から建物の明渡しを求められた占有者には、6か月間の明渡猶予期間が与えられます(民法395条1項1号)。選択肢2でも、Dから明渡請求を受けたとしても、Cは6か月間は明け渡さないことが可能です。
したがって、選択肢2は妥当ではありません。
選択肢3:◯(妥当である)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢3
AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
抵当権者は、抵当権設定登記を備えていれば、抵当不動産の賃借人に対しても抵当権の効力を対抗できます(民法177条)。
抵当権設定登記を備えている抵当権者は、債務者が債務を履行しなかった場合、債務者が有する抵当不動産から生じた賃料債権に物上代位できます(民法372条、304条)。
そして、賃料債権の譲受人が債権譲渡の対抗要件を備えていたとしても、賃料が実際に支払われる前であれば、物上代位により賃料債権を差し押さえることが可能です(最高裁判所第二小法廷平成10年1月30日判決)。
そのため、抵当権者Bが物上代位により賃料債権を差し押さえた場合、CはBへの支払いを拒めません。
したがって、選択肢3は妥当です。
選択肢4:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢4
Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
不動産の抵当権者と同一不動産の賃借人は、対抗関係となり、賃借人は対抗要件を備えなければ、賃借権を抵当権者に対抗できません(民法605条)。
選択肢1のとおり、一定の要件を充たす場合、抵当権者は、賃借人に抵当不動産の明渡し(所有者への明渡し)を請求できます。
ただし、抵当権者自身に明け渡すよう請求できるのは、「抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合」に限られます(前掲最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決)。
選択肢4では、抵当権設定者「Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できる」状況であるため、抵当権者Bは自分に甲建物を明け渡すよう請求することはできません。
したがって、選択肢4は妥当ではありません。
選択肢5:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢5
CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。
抵当権者は、抵当権設定登記を備えていれば、抵当不動産の賃借人に対しても抵当権の効力を対抗できます(民法177条)。
ただし、抵当権設定登記を備えている場合であっても、抵当権者は、転貸借の賃料を物上代位により差し押さえることはできません(最高裁判所第二小法廷平成12年4月14日決定)。
そのため、Bは転貸借賃料債権に物上代位権を行使できません。
したがって、選択肢5は妥当ではありません。
詳細解説:本問を解くための前提知識
本問は、抵当権者または競売の買受人と賃借人の優先関係、抵当権の効力(物上代位・妨害排除請求権)が問われています。
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。この場合に関する次の記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものはどれか。

この本問の設例事例をもとに、基礎知識を確認しておきましょう。
抵当権とは
抵当権とは、債務者または第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産・地上権・永小作権について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことです(民法369条1項、2項)。
抵当権を有する権利者を抵当権者といい、抵当権によって担保される債権のことを被担保債権といいます。また、不動産などを担保として提供している人は、抵当権設定者といいます。
本問では、Aが抵当権設定者、Bが抵当権者です。
民法 第369条
- 第1項 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
- 第2項 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
引用元:e-Gov法令検索
抵当権と賃借権の関係
抵当権者と抵当不動産の賃借人との関係は、行政書士試験でも頻出です。
不動産の賃借権は債権ですが、対抗要件を備えなければ第三者に賃借権を対抗できません(民法605条)。
そのため、同一不動産の抵当権者と賃借人は対抗関係となり、賃借人は、抵当権設定登記よりも先に賃借権の対抗要件を備えなければ、抵当権者に賃借権を対抗できません(民法177条)。
本問では、Bが抵当権設定登記を備えた後に、Cの賃借権が設定されているため、CはBに賃借権を対抗できない関係であることが前提とされています。
民法 第605条
- 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
引用元:e-Gov法令検索
選択肢1の詳細解説:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢1
Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができないため、Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
選択肢1では、抵当権者による建物明渡請求の可否が問われています。
抵当権者と賃借人の関係
前記のとおり、不動産の賃借権は債権ですが、不動産賃借権を第三者に認めさせる(対抗する)には、対抗要件(賃借権設定登記)を備える必要があります(民法605条)。
※なお、借地借家法では、建物の引渡しも賃借権(借家権)の対抗要件となります(借地借家法31条)。
抵当権者と賃借人は互いに民法177条の第三者関係(対抗関係)になるので、対抗問題として、先に対抗要件を備えた方が権利を対抗できることになります。
選択肢1では、Bの抵当権設定登記がCの賃借権設定よりも先であるため、Bの抵当権がCの賃借権に優先されます。
抵当権者による建物明渡請求の可否
抵当権も物権であるため、抵当権者は物権的請求権があります。この物権的請求権の一環として、抵当権の侵害者に対して妨害排除を請求できます。
ただし、本問のCは、Bに賃借権を対抗できないとはいえ、不法に抵当不動産を占有しているわけではなく、正式にAから賃借して占有しています。
そのため、Cのように抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者に対して抵当不動産の明渡しを請求できるのは、以下の要件を充たす場合に限られると考えられています(最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決)。
- 占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
- 占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決
所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ,抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる(最高裁平成8年(オ)第1697号同11年11月24日大法廷判決・民集53巻8号1899頁)。そして,抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても,その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができるものというべきである。なぜなら,抵当不動産の所有者は,抵当不動産を使用又は収益するに当たり,抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており,抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。
引用元:裁判所サイト
選択肢1の結論
選択肢1では、Cは甲建物の賃借人ではあるものの、それ以上の具体的な行為は記載されていません。問題文からは、Aに競売妨害の目的があったか否かなどはわかりません。
そのため、抵当権者Bは、必ずしも「直ちに」Cに妨害排除請求できるとは限りません。
したがって、「Bの抵当権設定登記後に設定されたCの賃借権はBに対して対抗することができない」との部分は正しいですが、「Bは、Cに対して、直ちに抵当権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる」とする部分は妥当ではありません。
選択肢2の詳細解説:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢2
Bの抵当権が実行された場合において、買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる。
選択肢2では、賃借人と抵当権の実行による競売の買受人の関係、建物明渡猶予制度が問われています。
賃借人と抵当権の実行による競売の買受人の関係
前記のとおり、賃借人と抵当権者は対抗問題となり、先に対抗要件を備えた方が権利を対抗できます。
抵当権者が抵当権を実行して抵当不動産を競売にかけた場合、抵当権者と賃借人の優劣関係は、競売による買受人と賃借人に引き継がれます。
本問では、抵当権者Bが先に抵当権設定登記を備えているので賃借人Cに優先し、Bの優先的地位を買受人Dが引き継ぎます。
そのため、DはCに対して競売によって甲建物の所有権を取得したことを対抗できます。
所有権に基づく妨害排除請求と明渡猶予期間
所有者にも、物権的請求権としての妨害排除請求権が認められます。この所有権に基づく妨害排除請求権には、選択肢2の抵当権に基づく妨害排除請求のような制限はありません。
ただし、妨害排除請求権に基づいて明け渡しを求めた場合でも、「今すぐ出ていけ」とまでは言えません。
建物賃借人を保護するため、建物が抵当権の実行による競売で売却された場合であっても、建物賃借人は買受人が買受けた時から6か月経過するまでは、買受人に建物を明け渡さないでよいものとされています(民法395条1項)。
そのため、DはCに甲建物の明渡しを請求できますが、CはDの買受時から6か月間は明け渡しをしないことが許されます。
したがって、「買受人Dは、Cに対して、直ちに所有権に基づく妨害排除請求として甲の明渡しを求めることができる」とする選択肢2は妥当ではありません。
民法 第395条
- 第1項 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から6箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。
- 第1号 競売手続の開始前から使用又は収益をする者
- 第2号 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者
引用元:e-Gov法令検索
選択肢3の詳細解説:◯(妥当である)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢3
AがCに対して有する賃料債権をEに譲渡し、その旨の債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われた後、Bが抵当権に基づく物上代位権の行使として当該賃料債権に対して差押えを行った場合、当該賃料債権につきCがいまだEに弁済していないときは、Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない。
選択肢3では、抵当権の実行による物上代位の要件に関する知識が問われています。
抵当権の効力は抵当不動産の賃料債権にも及ぶ
抵当権の効力は、被担保債権に不履行があった場合、その後に生じた抵当不動産の果実(かじつ)にも及びます(民法371条)。
果実とは、物から生じる収益のことです。この果実には、以下の2種類があります。
- 天然果実(民法88条1項)
物の用法に従い収取する果実。
例えば、土地上の樹木になった果実、採石場から採取した石材など - 法定果実(民法88条2項)
物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物。
例えば、土地や建物を賃貸して発生した賃料
民法 第371条
- 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
民法 第88条
- 第1項 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
- 第2項 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
引用元:e-Gov法令検索
抵当権者は物上代位により賃料債権を差し押さえられる
前記のとおり、AのBに対する借入金の返済が債務不履行となった場合、Bの抵当権の効力はAのCに対する賃料債権にも及ぶため、抵当権を実行してその賃料を回収することができます。
抵当権を実行するメインの方法は抵当不動産を競売にかけて売却することですが、賃料を回収する場合は、競売ではなく、賃料を物上代位によって差し押さえて回収することになります。
物上代位とは、担保物権の効力を、目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物などの価値変化物に及ばせることです(民法372条、304条)。
例えば、Aが債務の履行を怠った場合、Bは抵当権に基づいて、AのCに対する賃料債権を差し押さえることができます。
民法 第372条
- 第296条、第304条及び第351条の規定は、抵当権について準用する。
民法 第304条
- 第1項 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
引用元:e-Gov法令検索
物上代位と賃料債権の譲渡の優先関係
選択肢3では、AのCに対する賃料債権はEに債権譲渡されています。しかも、債権譲渡通知が内容証明郵便によって行われているので、Eは債権譲渡の対抗要件を備えています。
債権譲渡の対抗問題と考えてしまうと、Bが差し押さえるよりも先にEが対抗要件を備えているため、Bは物上代位による差押えはできないように勘違いしがちです。しかし、この物上代位と賃料の債権譲渡の関係は、債権の対抗問題にはなりません。
また、抵当権の効力を賃料債権譲受人に主張しなければいけないので、抵当権設定登記を備えていることは必要です。
しかし、抵当権者は賃借権の存在を争っているわけではない(むしろ賃借権があることを認めている)ため、抵当権設定登記と賃借権設定登記の先後によって結論が決まるわけでもありません。
抵当権者が、債権譲渡された賃料債権を差し押さえられるかどうかは、賃料が「払渡し」されているか否かによって決まります。
すなわち、債権譲受人が債権譲渡の対抗要件を備えているか否かにかかわらず、抵当権者は、抵当権設定登記を備えた上で「払渡し又は引渡しの前」に譲渡された賃料債権を差し押さえれば、賃料を優先的に回収できると考えられています(最高裁判所第二小法廷平成10年1月30日判決)。
最高裁判所第二小法廷平成10年1月30日判決
1 民法三七二条において準用する三〇四条一項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という。)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という。)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。
2 右のような民法三〇四条一項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。
けだし、(一)民法三〇四条一項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、(二)物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、(三)抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、(四)対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。
引用元:裁判所サイト
選択肢3の結論
本問では、Bは抵当権設定登記を備えているので、抵当権の効力をEにも対抗できます。
そして、選択肢3では、債権譲渡されて対抗要件が備えられているものの、まだCがいまだEに弁済(賃料支払い)をしていないので、Bは賃料債権を差し押さえることができます。
Bが賃料を差し押さえた場合、CはBへの支払いを拒めません。
したがって、「Cは、Bの賃料支払請求を拒むことができない」とする選択肢3は妥当です。
補足:抵当権設定登記と賃借権登記
前記のとおり、抵当権者が賃借権の存在を否定して、建物明渡請求をするには、賃借権の対抗要件具備よりも先に抵当権設定登記を備えていることが必要です(民法177条)。
物上代位により賃料債権を差し押さえる場合も、抵当権を賃借人に対抗できなければいけないため、抵当権設定登記を備えていることは必要です。
ただし、賃料を差し押さえている以上、抵当権者は、抵当権設定者と賃借人との間に賃貸借関係があることを認めています。つまり、抵当権者は、賃借権の存在を否定していません。
そのため、賃料債権の物上代位の場合は、抵当権者と賃借人に対立関係がないので、いずれかが先に登記を備えなければならない関係にはなりません。
選択肢3でも、Bは、仮に抵当権設定登記を備えたのが賃借権設定登記よりも後であっても、物上代位により賃料債権を差し押さえてCに賃料の支払いを請求することが可能です。
補足:債権譲渡の対抗要件
債権譲渡を債務者や第三者に対抗するためには、債権譲渡の対抗要件を備える必要があります(民法467条)。具体的には、以下の対抗要件が必要です。
- 譲渡人から債務者に対する通知(※債権譲渡登記)
- 債務者の承諾
- 確定日付のある証書による譲渡人から債務者に対する通知
- 確定日付のある証書による債務者の承諾
確定日付のある証書とは、特定の日に存在したことを証明する印章が押された私文書です。代表的なものが、内容証明郵便や公証人による印章が押された文書です。
なお、法人の金銭債権の譲渡に関しては、確定日付のある証書による通知のほか、債権譲渡登記を備えた場合も第三者対抗要件となります。
民法 第467条
- 第1項 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
- 第2項 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。
引用元:e-Gov法令検索
選択肢4の詳細解説:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢4
Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある場合、Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できるときであっても、Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる。
選択肢4では、選択肢1と同様、抵当権者による建物明渡請求の可否が問われています。
ただし、選択肢4では、ただ明渡請求ができるかだけではなく、抵当権者自身に明け渡すよう求めることまでできるのかが問題になっています。
抵当権に基づく妨害排除請求
選択肢1で説明したとおり、Cのように抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者に対して抵当不動産の明渡しを請求できるのは、以下の要件を充たす場合に限られると考えられています(最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決)。
- 占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
- 占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
選択肢4では、「Cのための賃借権の設定においてBの抵当権の実行を妨害する目的が認められ、Cの占有により甲の交換価値の実現が妨げられてBの優先弁済権の行使が困難となるような状態がある」ため、BはCに甲建物の明渡しを請求できます。
抵当権者自身への明渡請求の可否
抵当権は目的物を占有せずに交換価値を把握する担保物権です。そのため、占有者に目的物の明け渡しを求められるとしても、明け渡す先は抵当権者ではなく、目的物の所有者とするのが原則です。
そこで、抵当権に基づく妨害排除請求が可能であるとして、抵当権者自身に抵当不動産を明け渡すよう請求できるのかが、さらに問題になります。
この点、前掲最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決は、以下の場合には、抵当権者自身に対して明け渡すよう請求できると判示しています。
- 抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合
最高裁判所第一小法廷平成17年3月10日判決
(選択肢1での引用の続き)
抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。引用元:裁判所サイト
選択肢4の結論
選択肢4では「Aにおいて抵当権に対する侵害が生じないように甲を適切に維持管理することが期待できる」ので、抵当権者Bが自分のもとに甲建物を明け渡させる必要がありません。
そのため、BはCに対して自分に甲建物を明け渡すよう請求することはできず、Aに明け渡すよう請求できるだけにとどまります。
したがって、「Bは、Cに対して、抵当権に基づく妨害排除請求として甲の直接自己への明渡しを求めることができる」とする選択肢4は妥当ではありません。
選択肢5の詳細解説:×(妥当でない)
Aが所有する甲建物(以下「甲」という)につき、Bのために抵当権が設定されて抵当権設定登記が行われた後、Cのために賃借権が設定され、Cは使用収益を開始した。
選択肢5
CがAの承諾を得て甲をFに転貸借した場合、Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる。
選択肢3のとおり、抵当権者は、抵当不動産の賃料債権に物上代位できます。選択肢5では、転貸借の賃料債権への物上代位が問題になっています。
転貸賃料債権の物上代位の可否
転貸借の場合、転貸人(抵当不動産の賃借人)は抵当不動産について物的責任を負う立場にありません。それにもかかわらず、転貸借の賃料が物上代位の対象になるとすると、転貸人の利益が害されます。
そこで、民法372条・304条の「債務者」には転貸人は含まれず、抵当権者は、転貸借の賃料債権を物上代位によって差し押さえることはできないと考えられています(最高裁判所第二小法廷平成12年4月14日決定)。
そのため、選択肢5でも、Bは、CがFに対して有する転貸賃料債権を物上代位により差し押さえることはできません。
したがって、「Bは、特段の事情がない限り、CがFに対して有する転貸賃料債権につき、物上代位権を行使することができる」とする選択肢5は誤りです。
最高裁判所第二小法廷平成12年4月14日決定
民法三七二条によって抵当権に準用される同法三〇四条一項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。
以上のとおり、抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得すべき転貸賃料債権について物上代位権を行使することができないと解すべきであり、これと異なる原審の判断には、原決定に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
引用元:裁判所サイト
【一歩進んで】転貸料を物上代位できる「特段の事情」
上記のとおり、抵当権者は、転貸借の賃料債権を物上代位により差し押さえることはできないのが原則です。
ただし、前掲最高裁判所第二小法廷平成12年4月14日決定のとおり、「抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合」がある場合は、転貸借賃料に物上代位できることがあると考えられています。
本選択肢でいう「特段の事情」とは、この「抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合」を指します。
具体的には、「所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものである」場合などが挙げられています。
本問で覚えておくべき知識
行政書士試験令和6年度問30では、抵当権の効力のうち、妨害排除請求権や物上代位について問われています。
本問では、判例の知識がないと正解を導くのが難しいかもしれません。この機会に、以下の知識を押さえておきましょう。
- 抵当不動産の賃借人は、抵当権設定登記よりも先に対抗要件を備えなければ、抵当権者に賃借権を対抗できない
- 賃借人が抵当権者に賃借権を対抗できない場合、抵当権の実行による競売の買受人に対しても賃借権を対抗できない(賃借人が抵当権者に賃借権を対抗できる場合は、買受人に対しても賃借権を対抗できる)
- 抵当権者は、以下の場合、抵当不動産の占有者に対して、抵当権設定者(所有者)に明け渡しすよう請求できる
- 占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められること
- 占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があること
- 抵当権者が、占有者に対して、抵当不動産を自分に明け渡すよう請求できるのは、「抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合」に限られる
- 抵当権者は、物上代位により、抵当権設定者が有する賃料債権を差し押さえることができる
- 賃料債権の譲受人が債権譲渡の対抗要件を備えた場合でも、実際に賃料が支払われる前であれば、賃料に物上代位できる
- 抵当権者は、転貸借の賃料には、物上代位できない。
関連する過去問
抵当権については、他の資格試験でも問われています。
- 宅建試験令和元年度問10
論点:抵当権の配当計算・抵当権の順位の譲渡 - 宅建試験令和3年度(12月)問10
賃借人と抵当権者・競売買受人・抵当権の物上代位・借家権の対抗要件 - 宅建試験令和4年度問4
論点:代価弁済・建物明渡し猶予制度・土地と建物の一括競売・抵当権消滅請求 - 宅建試験令和5年度問10
論点:抵当権の配当計算・抵当権の順位の放棄 - 宅建試験令和7年度問4
論点:抵当権・質権の対象、留置権の要件(牽連性)、一般の先取特権の要件、不法行為債権の相殺


